neutron Gallery - 中比良 真子 展 『 bird eyes 』 - 
2006/5/15Mon - 28Sun gallery neutron kyoto
ニュートロンアーティスト登録作家 中比良 真子 (絵画)

水や女性、花、空、などシンプルなモチーフからイメージを大きく広げる作風は等 身大の自分と向かい合う姿勢を映し出す。  今回はギャラリー空間いっぱいに広がる「bird eyes(鳥瞰図)」をどのように展 開するか、注目!





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gallery neutron 代表 石橋圭吾

 中比良の個展回数は決して多くはないのだが(ニュートロンではまだ2回目)その印象的な画風によって認知度は高く、更には昨年の京都府美術工芸選抜展や大阪でのART COURT FRONTIER #3に推薦されたことからも評価の高いことが伺える。いや、正確にはART COURTに推薦したのは私自身なのだが、それくらい若手の中では有望で、作風と今後の展開にしっかりとした軸を感じ取ることができると判断したためである。しかし私がそうしなくても、きっと周囲の期待は必ず彼女を放ってはおかなかっただろう。だからこそ今回のKYOTO ART MAP 2006に抜擢、となるのである。
 御存知ない方の為に簡単に御説明すると、KYOTO ART MAPとは京都市内にある現代美術画廊の有志16軒(年度により変更あり)が2年に1度、5月のこの時期に各ギャラリーで期待の作家をピックアップし、合同で地図(まさにアートマップ)を作って全国各地から足を運んでもらおうとのイベントである。つまりこれだけの大々的な宣伝のされる展覧会は2年に1度しかないのである。作家にプレッシャーをかける訳では無いが、このチャンスを活かして一気に羽ばたいて欲しいものである。
 「羽ばたく」と言えば、まさに今回の新作こそそれである。『bird eyes』と題された今回の大きなパノラマ画は、読んで字のごとく、「鳥瞰図」である。おそらくは自身を鳥に重ね合わせ(余談だがこの場合の鳥が小鳥なのかそれとも勇ましい鷲のようなものか、私にはこの作家のイメージが意外にも後者のような気がしてならない)、大空にすーっと舞い上がり、地上の様々な出来事や知らない土地、人々の営みを暖かくも客観的に見下ろす願望が描かせるものなのか。こういった作品は珍しくは無いかもしれないが、中比良は単にパノラマを構図の問題で終わらせはしないだろう。自分を取り囲む(本来は上下左右あらゆる方角においてぽつりと浮かぶ)空、遥か下から前方に広がる大地、そしてその先には消え入るような真っ白な地平。そういったものは作家にとって自己の存在を体現する上で欠かせない要素となってきており、今回はそれらの一つの結実と捉えることができるだろう。
 前回(2004)の個展以来、鮮やかな色彩と花を女性の顔面にあしらうインパクトのある作風で「blooming」というシリーズが続けて展開され、それらを目にして覚えている方も多いと思う。しかし、実は今回の「bird eyes」はそれ以前から試行錯誤されていた連作の流れを汲むものであり、モノトーンに近い色彩、巨大な画面を縦横に展開する圧倒的なスケールと細部の描写は「blooming」とはまた違った魅力を持つものである。作家にとっても、「blooming」では一見華やかな外見だけでなく花を人間の内面の現れと見立て、ポートレートとして様々な表情を映しだした。一方、2002年の「Over there」あたりから今回に至る一連の作風では、人間はぽつりぽつりと儚気に、距離を置いて存在させている。風景画のようで結局は人間が描かれているのだが、その距離の取り方は一見冷めていて、実は暖かい。どちらも作家自身の人間に対する畏怖と愛情の現れなのかも知れないが、今回の「bird eyes」では空高く舞い上がった視線に(直接的には)人間は映らない様である。さりとて私達の住むこの世界をじっと見据えることに違いはない。作家は(この作品を体感する私達も)自分という存在をどのように空中で確かめようとするのだろうか。