neutron Gallery - 入谷 葉子  展 - 
2005/8/1Mon - 14Sun gallery neutron kyoto
ニュートロンアーティスト登録作家 入谷葉子 (インスタレー ション)

版画とドローイングを使い分け、視覚の問題に積極的に取り組む入谷。 進境著しい近年の充実した活動ぶりそのままに、今回も新たなテーマに挑む。 「サル山のサル」をモチーフに、限られた空間に存在する生物とその空間を描きな がら、遠く離れたサル山と異次元でリンクする様をも導こうとする。 この個展に合わせて、待望のコラボレーションTシャツも2種類登場。お見逃しな く!





comment
gallery neutron 代表 石橋圭吾

 入谷葉子のここ数年の充実した制作ぶりを見ると、迷い無く視覚の問題点を具現化する着実な姿勢と、アイデアを形にする技法の発展と洗練を感じずにはいられない。そもそも大学在学中の頃から目立っていた奇抜とも言える線描と色遣いの醍醐味は決して失うことなく、より画面を有効に使い、平面としての表現を求め続けてきたのだが、昨年夏のニュートロンと冬のOギャラリーeyesでの両個展における進境は著しいものがあった。
 「版画」は入谷の制作における一つの重要な要素であり技法でもあるが、初期においては色鉛筆等による描線と版画によるそれは混在し、少なからぬ画面の混乱を来していた。しかし画面における「塗り」と「線」の両極化と極彩色から限定色への変化を経て、今やその作品の安定感と視点は確固たるものになりつつある。ニュートロンでの「boardin bridge」及びOギャラリーeyesでの「lift」という二つのテーマにおいて、例えば入谷は従来に無かった完全に「塗り」だけの作品を見せてみたり、あるいは同じモチーフ、構図の多様な側面を引き出すためにいくつもの工程を変化させたシリーズを見せた。得意技の細かい線描は時に背景に渦を巻き、時に主体となるモチーフの体躯に有機的なエネルギーを走らせる。モチーフが無機質なものであったのもあり、一見静かな画面に近付くと徐々に見えてくる線の動きは感情というよりも空気の中に漂う電流や「気」、あるいは自らの網膜のハレーションとさえも感じられ、何の変哲も無い光景に多くの(一律でない)印象を獲得することに成功したと言えるだろう。と同時に、シルクスクリーンによる「塗り」と色鉛筆による「線」の主客逆転を意図的に行ってみせることにより、私達は同じ様な光景のネガとポジを見るかのごとく、その前後関係や存在自体をもあらゆる角度から考察することを無意識に促される。まさにこれこそが入谷の試みる視覚における空間依存の問題をさらけ出す事である。
 今回の個展では、久しぶりにモチーフに有機体が現れる。人物のポートレートのような、あるいは群集像のような扱われ方ではないが、「サル」は確かに生き物として描かれる。しかし同時に彼らは「サル山」における「サル」だと定義されている。何ゆえそのような限定をするかと言えば、やはり「サル山」というローカルな地点(背景)における「サル」(視点となる主人公)の相互の関係をあぶり出しつつも、さらにその相互関係を超えた次元の出来事をも想像させたいとする、新しい意図がある。つまり空港における飛行機やボーディングブリッジの関係性、スキー場におけるリフトの関係性はその中の光景を問題とすることから始まったが、今回の「サル山」はその奥に広がる未知の領域を、最初からイメージしながら制作されているのであろう。私達もサル達と同様、約束に守られた世界の大きさ(狭さ)を認識しつつも何か得体の知れないエネルギーの集合体としての「サル山」を発見し、さらには各地に多数存在するそれらが同種の有機体としてリンク(相互依存)しあうという、スケールの大きなアイデアを楽しむ事になろう。
 私達の住む世界はいづれにせよ狭い。しかし見知らぬ土地のまだ見ぬ景色は、案外私達のすぐ向こう側に見えるのかもしれない。