neutron Gallery - 福島 菜菜 展 『 夏目漱石作 - 夢十夜 第三夜 』 - 
2005/8/29 Mon - 8/11 Sun gallery neutron kyoto
ニュートロンアーティスト登録作家  福島菜菜(絵画)

夏目漱石の短編小説「夢十夜」から一話づつに着目して、独自の解釈に基づいて絵 画作品を生み出すシリーズも今回で3回目。「第三夜」は陰気で悲しい話だが、福島の絵画における実験精神はオリジナルストー リーに縛り付けられることなく、自由に楽しむ事ができる。作品を御覧になる前に、ぜひ一度お話も読んでみることをお勧めします。





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gallery neutron 代表 石橋圭吾

 8月のこの季節に福島菜菜の個展を開催するのは、ニュートロンではすっかりお馴染みになってしまった感がある。夏目漱石の小説「夢十夜」(十の短編から成る小説)の一話ごとをテーマに、挿絵としてではなく福島独自の解釈と想像によって描き出される絵世界は、小説の数少ない言葉からかくもここまで!と思わずにはいられないイマジネーションをもって繰り広げられる。今回が3回目ということは必然的に「第三夜」が主題として読み解かれるのだが、あくまでも「福島の解釈による絵世界」なので、もし小説を読んだ事が無くても必ずしも気にする事はない。ただし、とても短く面白い小説なので(毎年言っているが)この機会にぜひ一読してから(あるいは会場に置かれるテキストを後からでも読んで)作品を楽しむことをお薦めする。本来はテキストと作品の関係性は付かず離れず程度が良いと思うのだが、この展覧会に関しては「ことば」とそれに表されていない世界をいかに福島が感受し想像力を働かせて描くのかがポイントなので、私達も福島と同じ様にストーリーを知っていれば、その分だけ楽しむことが出来るだろう。
 簡単に3回目、と言うがなかなかこのような作業を続けることは難しい。マンネリズムに陥る危険性もあるし、作家としてのモチベーションや日程をコントロールすることも。私はたまたま等間隔で開催することになったこの企画を、本来はもっとゆっくりと間を空けて、彼女のライフワーク的な位置付けで取り組んでも良いだろうと感じている。なぜなら、福島は高校生の時から「夢十夜」を大切に読んでいるし、今猶そこから大きなインスピレーションを受けているのだから!
 過去2回の発表において、作品そのものも変化を見せている。初回(第一夜)においては学生時代からそれまでの重厚な絵画スタイルの平面を中心に、絵の具の質感と匂いが充満する濃厚な部屋が作られた。その頃の作品は色彩も豊かで、極彩色額装作品に登場するユーモラスなキャラクターの取り合わせがアニメ的な軽やかさを兼ね備えていた。昨年の2回目(第二夜)においては色彩も画面もずっとそぎ落とされ、白地を活かした線描と空間構成、何よりも行間を読み解くに同じく画面の「間」を意識して活かした作風が新鮮であり、新たな可能性を示した。前者が画面を埋め尽くさんばかりの筆量と情報量で画面が蠢いて見えたのに対し、後者は極めてフラットな描かれ方で、余白を楽しむ事を促される。いつも思うのだが、福島の絵画はいわゆる日本画的なデザイン性、装飾性及び色彩感覚と、洋画的な重厚感、質感、自由度を兼ね備えているようだ。それだけでなく、背景とキャラクターの関係はもっと別次元の表現(アニメーションやその立体化)の可能性すら感じさせる。その重点がその時々でどこにどう置かれるかは、作者の問題意識や興味にも拠るだろうが、その自由度は 広いはずだ。だからこそ、短期間ではなくロングスタンスで自身の絵画の可能性を探って欲しいと思う。
 「第三夜」はとても陰気で怖い話である。真夏の夜の怪談に聞こえそうな趣だが、当然作品においてそんな怖さが前面に押し出されるだけではないだろう。人間の織り成す「業」や「情」はいつの時代にも私達を苦しめる。そしてまた、それらが有るからこそ人生は魅力的でもあるのだろう。福島が今回どのような質感を伴って、この暗い世界に花を咲かせるのか、注目したい。