neutron Gallery - Scott Harber 展 『 Tree Climbers 』 - 
2005/7/18 Mon - 31 Sun gallery neutron kyoto


カナダ出身、世界各地を旅してユニークなペインティングを制作するスコット。日本での初個展となる今回は、京都に住んでからの印象も織りまぜつつ、新作を中 心にずらりと発表。とぼけた表情のキャラクター達は思い出のあの人でもあり、私達自身でもある。時にシニカルなメッセージを内包する世界観は奥深い。今回の個展に合わせて、ニュートロンとスコットのコラボレートTシャツを2種類 発売。お楽しみに!





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gallery neutron 代表 石橋圭吾

 カナダ出身のスコットは、現在京都に住んで子供達に英語を教えながら制作に励んでいる。多くの日本在住の外国人にとって語学教師は一般的な職種であるが、スコットにとっては特に子供達と触れ合えるという機会において、特別なものでもある。彼は日常生活において子供だけでなく多くの人々との触れ合いや新鮮な出来事を楽しみ、旅を好み、その喜びが作品に大いに反映されている様だ。旅先で、あるいは普段の何気ない一時にスナップ写真を撮るかのように、実は彼のユニークな絵は自然に描かれている。決して奇をてらっているのではなく、ユーモアと無邪気さを兼ね備えた絵は「生まれる」。
 彼の絵の多くに登場する奇妙なキャラクター達は、実は私達の周りにいる愛すべき人々や生き物であり、あるいは私達自身の姿でもあり、時には目に見えない「霊」的な存在でもある。その表情は時に滑稽で、シリアスなポートレートにはとても見えなかったとしても、彼はモチーフとする対象の本質を描こうとするが故に、それらの顔や姿をその印象によって自在に変化させるのだろう。「仮面」のような物として捉えることも可能かもしれない。とぼけた表情は大きく感情をアピールすることは無いが、その奥に何かを秘めていることを必然的に暗示するからだ。しかしそれは、多くの場合においてネガティブなものではない。彼は基本的にハッピーな記憶あるいは記録としての絵を描こうとするし、描いた絵によって誰かを攻撃したり、傷つけようとするものではないからだ。むしろ子供が生来的に秘める無邪気な残酷さを感じさせることは有るかもしれない。
 子供達は例えば魚のことを「おさかなさん」と呼び、象のことを「ぞうさん」と呼ぶ。空は「おそら」で、嫌いなニンジンは「ニンジンさん」と呼ばされて無理矢理食べさせられる。単に擬人化しているだけでなく、彼らにとって人間も動物も森羅万象も愛すべき身の回りの存在であり、友だちになり得る存在なのだ。もちろん大人になってまでそのように考える人は少ないが、スコットはそんな純粋な気持ちを持ち続けている一人であるのは間違い無い。全ての存在に対する尊敬(リスペクト)は、彼の表現の根底にある。だからこそ、子供も大人もこの絵を愛することのできるのだろう。
 今回の個展では(もちろん日本では初めてとなる)、京都に来てからの新作を中心に数多くのペインティングとスケッチ(ドローイング)を展示する予定である。元来、難しいコンセプトありきの作家ではないので、その徒然なる作品群を一気に眺められるような展示にしたい。作家の個人的な絵日記は一枚一枚が普遍的な魅力を兼ね備えている。人種や文化は違えど、彼のユーモアと愛に溢れる絵がどのように鑑賞されるのかは、私にとっても興味深い。そしてまだ若い彼にとって、この個展における多くの出来事がきっと色々な形で彼自身に影響をおよぼし、日本での滞在における活動を充実させるだろう。