neutron Gallery - 川本史織 展 『リキッドルゥム』 - 
2003/12/15Mon - 21Sun 京都新京極 neutron 5F gallery

京都各地で行われる「Hoe are you ? Photography」に合わせてニュートロンが ピックアップするのは、「CENTER EAST」でもお馴染みの若手写真家・川本史織。多 才な作風の中から、今回は雨の中を走る車窓の風景のシリーズを見せる。






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gallery neutron 代表 石橋圭吾

 写真の現在進行形の姿とは、いかなるものか。ここ数年、従来の写真枠を意図的に飛び出しての「写真表現」が現代アートの世界にも目立ってくるようになってきた。いや、あるいは現代アートの目線の方も、写真を再評価しようと試みつつあるのかもしれない。そんな中、写真を撮る、そして発表する人間も「作家」としてのスタンスが改めて問われることになろう。若手の写真表現はともすればナルシズムとプライバシーと「感覚」的なパーツの羅列によって自己完結に陥りがちである。一方で技術的に追究し、いわゆる「写真」の世界にどっぷり漬かってしまうと今度はそれを打ち破る試みはなかなか出て来ない。畠山直哉のような人物は希有な存在とも言える。しかし彼の活躍によって、知らず知らずに写真表現がアートの世界において脚光を浴びるという恩恵を被る土台ができつつあるのも見逃せない。
  川本史織は(まず言っておかなければいけないのは、彼は男性である)カメラマンとして生計を立て、一方で写真表現を活発に行っている。昨年10月にニュートロンの地下ギャラリーにて行われた「CENTER EAST No.2」展において彼が服飾のナカヒガシユウコと共にインスタレーションを行ったのは記憶に新しい。仕事柄、モデルを使った撮影は多く、ファッション写真としての素地もあるのだが、そこに完全なる執着を見せてはいない。むしろ過去の写真シリーズを見ればそのとめどないアイデアの多さと貪欲な姿勢は、本当にカメラを肌身離さず持ち歩いている者にしか表せないものである(添付した資料はそのごく一端に過ぎない)と感じる。しかしながらそう言った幅の広さ(視野の広さ、というか)は、作品を観賞する側にとっては必ずしも良しとされない傾向もある。何より、前述の通りイメージの大量の羅列にはうんざりしている昨今、写真を撮ったはいいが見せることに対する意識の違いが、その写真家の評価を天と地ほどに分けてしまいかねない。そういった意味で川本も当然ながら試行錯誤の上での発表を続けてはいるが、「個展」という形式でのまとまった発表に関しては未だ少ない。コラボレーションやグループ展では結局のところ、写真というものはどうしてもイメージ作りに回ってしまい、BGMのように通り過ぎられてしまう恐れさえあるのである。写真は本当に、見せ方ひとつで(あるいは見方ひとつで)全く違う表情を見せる。もちろん、そもそもの写真が内包する要素にもよるが。私がこの時期(「How are you ? Photography」などによって写真が各ギャラリーで登場する時期)にあえて彼を登場させたかった理由は、ここにある。「軽い」と思われがちな彼の写真を、まずはしっかりとソロで見せたかったのである。そして今回の企画に関しても二人で話し合い、納得の上で内容を選別した。おそらく彼の写真を日頃から知っている方々には意外に思われる人もいるだろう。
  アナログ写真はもとより、彼はデジタル写真を用いるのにも抵抗は無い。むしろ積極的にその追究を行い。その差異や特徴を活かした写真を撮っている。デジタルカメラによって撮影された今回のシリーズもまた、彼独特の透明感と洗練された構図、そして地味ではあるが(彼にしては)遊び心が表れている。彼のような多産で好色な(欲張りな、という意味で)写真家にとって、ひとつのシリーズは全体の一部でしかないが、一部はまた全体でもある。ストイックにさえ映るであろう今回のシリーズにもまた、彼のエッセンスが凝縮されているはずだ。もうひとつ、彼がどのように「展示」するか、も注目して頂きたい。写真を見せる方法はこれまでも、これからも議論され試行されていく。現在進行形の川本が今現在において、もっともタイムリーな発表を完成させるのには、さて、どのように展示されるか、もまた見所ではある。