安だちけい子展
 
2004.5.4tue 〜 16sunneutron B1 gallery

 インフルエンザが猛威をふるい、私達は医学の力を持ってしても為す術の無い状況を目の当たりにし、動揺し、混乱する。あるいは、DNAレベルでの品種改良された作物や食肉がスーパーに並んでいればその出所を気にせずにはおれず、できれば「安全な(とされる)」遺伝子組み替えのないものを選びたいと思う。しかし一方ではチューリップやバラ、あるいは競走馬など品種改良こそが命であり、交配という立派な人為的遺伝子操作は当然のものとして認知され、そこに抵抗は無い(おそらく一般的には)。私達が実際に口にし、食べ物として取り込むものには過剰に心配をし、観賞用の生物にはさして考えもしない。人間とは、かくも贅沢で身勝手な生き物だと感じざるを得ない。まるで生物を作る(クローン技術はもう実用されている)ことが現実になり、神の領域にでも踏み入れたかのごとく、人間は絶えず研究という名の元に、自然界の聖域に挑戦せずには居られないのだろうか。
 安だちけい子は、もともと生物を研究していた。芸大を出て・・・の美術畑とは違った経歴を持つ。安だちは自身の研究対象から着想を得て、哲学や美術とシンクロしながら、自身の表現というものを生み出してきた。しかしここでいう「表現」とは作家性うんぬんの範囲で収まらず、生命科学、哲学、そして美術のそれぞれのクロスする領域の発表、とでも言えなくはない。例えば「繭」というモチーフは、それだけで生命の多様な側面を見せるが、そこに安だち自身の姿・存在も投影されている。また、今回出展する遺伝子写真(顕微鏡写真)も、そもそもは作家自身の血液を採取し、撮影されたものである。被写体として簡単に「遺伝子」あるいは「DNA」と捉えるのは簡単だが、それは他の誰でも無い、作家自身のものであるのだから安だちが言う様に、その染色体写真をもって「セルフポートレート」と言うのは全く間違っていない。近代の犯罪捜査を確立させたのが「指紋」であるなら、今やそれは「DNA」照合にとって変わろうとしている。私が、あなたが誰であるか、何ものであるかは全てDNAを見れば一目瞭然なのである。安だちのDNAを見るということは、すなわち安だちが何者かを知るようなものだ。ただし、それだけでは「芸術」の範疇に入れるのは難しいだろう。遺伝子写真は生物科学の本を開けばさして珍しいものでは無いであろうし、人間の数だけそれは撮影可能なものでもあるから。安だちが「表現者」たる所以は、むしろそういった出所を元に、自身の理論やパフォーマンスを織り交ぜ、様々な形態で、様々な場所で、万人に向けて発表を行うところにある。では、何を伝えようとしているのか。「生命倫理」や「科学の素晴らしさ」「人間の尊さ」も間違ってはいないだろうが、彼女は言葉で伝えきれるものを越えて、五感に訴えかける作品展示・行為をもって、私達に考えるきっかけを与えようとしているのだ。「生命とは?」「自然とは?」・・・これまでに数えきれない程議論されてきたこの普遍の問いが、まさしく核にある。そしてその答えを決定するのは容易なことではないし、安だちの目的でもない。日常の中にそのような漠然として、根本的な問題を考えるきっかけを作る事。それこそが、安だちの表現だと言っても過言ではないだろう。
 「繭」をモチーフに毎回、各地で形を変えて展開される「繭プロジェクト」とは分けて、今回は「micro / macro cosmos project」と題し、写真という形での発表になる。「写真展」ではなく、写真を通じての発表と思って頂きたい。自身の細胞の顕微鏡写真(アナログ撮影)と新作(血液の赤をイメージした全身タイツを着ての自身の撮影/デジタルカメラ撮影)との対比により見る者のスケール感を混乱させ、遺伝子レベルの小宇宙と惑星レベルの大宇宙をリンクさせ、結果、生命あるいは種というものの存在はいかなるスケールにも共通し、普遍であると感じさせる試みになろう。飯沢耕太郎氏らによるトークイベントも予定。あらゆる側面から皆さんの体内をくすぐる発表になることを願う。
ニュートロン代表 石橋圭吾

Keiko Adachi Art Profile (個展及び繭プロジェクト企画展)
1995 「歪みと揺らぎの中にあなたが存在(いる)」(ギャラリー射手座/京都)
1996 「〜繭と私〜」(銀座ファゼンタF8/東京)
     「つながりの関係性について」(同時代ギャラリー/京都)
1997 「セルフポートレート但しそれは1要素でしかない」(ギャラリーK-1/京都)
     「繭〜クローニングへの問い(エスキース編)」(サクラホテル/東京)
     「繭との間」"Soi-Soie exhibition vol.1"(専修大学神田校舎15階ホール/東京)
     ※繭プロジェクト企画第一弾
1998 "Il y a soi - 繭 - Soie -... exhibition"(ギャラリーARK/横浜 他)
1999 「Soi(自己) - 繭 - Soie(絹)の間(はざま)展」(オルビスホール/神戸)
     ※繭プロジェクト企画第二弾
2001 "Cocoon Project
2001 Exhibition"(芸術創庫/名古屋)
     ※繭プロジェクト企画第三弾
2002 "Keiko's method requiem exhibition"(ギャラリーAggi/大阪)
2003 COCOON PROJECT 『繭庭』企画展及び座談会(京都芸術センター大広間)
2004 "micro/macro cosmos exhibition"(ギャラリーneutron/京都)

グループ展及びパフォーマンス、座談会等
1994 2人展 "Taku with Kei Exhibition"(ギャラリーすずき/京都)
     高瀬川灯籠流し作品展(立誠小学校跡地/京都)
     クリスマス小品展(ギャラリーすずき/京都)
1995 "from KYOTO to KOBE Concert & Art"出品/買上(法然院/京都) ※買上金は阪神大震災義援金として寄付
     Galerie Ou 阪神大震災チャリティ展出品/買上(寄付) (大阪)
     クリスマス小品展出品/買上(ギャラリーすずき/京都)
1996 グループ展(ギャラリーはねうさぎ/京都、 ポンピドー広場, 修道院/パリ)
     作品・音楽・舞踊コラボレーション形式パフォーマンス(けいはんなプラザホテルアトリウム/京都)
     触れてみる展覧会(京都文化博物館別館/京都)((選抜展))
     メールアート展(ギャラリーはねうさぎ/京都、 宝塚市立公民館/兵庫)
     猫づくし展(ギャラリー五大/京都)
     パフォーマンス「繭からのメッセージ」(京都国際交流会館広場/京都)
     "The LIBRARY vol.3"展(Gallery Art Space/東京、 ギャラリーそわか/京都)
     ART CAMP '96企画展(いまだて芸術会館/福井)(アーティストレジデンス形式)
     「賢治な感じ」写真展(ギャラリーK1/京都)
     インパクトアートフェスティバル'96展(京都市美術館)
     "PANIC"展(ギャラリーK1/京都)
     デザインフェスタvol.4(パフォ−マンス参加)(東京ビックサイト)
     クリスマス小品展(ギャラリーすずき/京都)
1997 LOVE300展(ギャラリーはねうさぎ/京都)
     第二回真綿のヴィジュアルアート公募展(世界観ギャラリー/東京)
     赤れんがプラザ企画:パフォーマンス及び座談会(中京青年の家大会議室/京都)
     ボンボリ展(立誠小学校/京都)
     "The LIBRARY vol.4"展(Gallery Art Space/東京、 ギャラリーそわか/京都、 ギャラリー週間アート/仙台)
     "Taku with Kei Exhibition"(ギャラリーすずき/京都) (3点買上)
     インパクトアートフェスティバル'97展(京都市美術館)
1998 Galerie Ou 阪神大震災チャリティ展(大阪)
     "The LIBRARY 1998"展(Gallery Art Space/東京、 ギャラリーそわか/京都、 ギャラリー週間アート/仙台)
1999 "The LIBRARY
1999"展(Gallery Art Space/東京、 ギャラリーそわか/京都)
     現代美術小品展'99(ギャラリーすずき/京都) 2000 フィリップモリスART AWARD
2000最終審査展(恵比須ガーデンルーム及びガーデンホール/東京)
     現代美術小品展2000(ギャラリーすずき/京都)

Micro / Macro Cosmos Project を企画するにあたって
〜自己(セルフ)・生命科学の肖像(ポートレート)を表現する作品として展示〜

新作についてのコメント
 今回の新作は1996年に発表した本人の実験撮影による染色体写真が基本になっている。当時、ヒトゲノム解析が世界中で盛んに行われていた。2003年4月現在の技術でヒトゲノムの99%(精密度は99.99%)で、最終段階の解読が完了し、その塩基配列は公開され、科学者がどこにいても自由に無料で情報を入手し、それを次の発見に役立てる事ができる様になった。今回の企画展では染色体による具現化した自己及び生命科学のポートレートのリメークと新作をつくる必要性を感じた。
 表現としてはヒトの血の色のシンボリックな色として赤の全身タイツを装着した作家本人による身体表現によって、基本になる染色体を独自に表象する。それをデジタルカメラで撮影し、初歩的なCG加工を用いて実験的に1996年の写真と共に展示する。それにより、現代社会の中でのテクノロジーの変容をポートレートとして表現することも意図としている。それはテクノロジーと生命の関係性をも具現化していないだろうか?

今までの作品紹介
 私の創作活動は写真、映像、平面、インスタレーション、パフォーマンス、ファイバーワーク(繭、絹、和紙を主とした)、繭プロジェクトなど表現形態を変えながらも統一したテーマを持つ。それは、「生命とは何か?自然(他生物)とヒト、他者と自己のつながりの関係性」を問いかける点にある。
 その基盤として、大学で生物学を研究して学び、後に哲学、文化に触れた事などが芸術を追求するスタンスに影響している様に思われる。
 なお、繭プロジェクトは1997年に設立し、繭の存在を独自の視点で見つめ続け、観客に対して五感で楽しめるインスタレーションを目指しながら、現在も活動を続けている。
 安だちけい子のホームページ(http://homepage3.nifty.com/bioart/)で過去の作品については一部公開しています。